『Cigarettes』
- 関根 優実
- 2021年3月15日
- 読了時間: 2分
更新日:2023年6月22日
ー私と煙草の6つの思い出ー
ガレージ横
父方の祖父はヘビースモーカーだった。ガラスコップを数個並べて水をたくさんだったり少しだったり入れて指を濡らし音を奏でたり、多種類の親父ギャグを孫たちに言ってみせたりする面白い歯医者さんだった。いつも車のガレージ横でタバコを吸っていた。その時の表情は私のおじいちゃんというよりも一人の人間そのものだった。煙で小さい輪っかを作って私たちに見せているときはいつものふざけた顔になっていた。なんとも素敵な絵を描く人だった。大学の教授でもあった彼は学生に慕われてたようだった。
姉と短い色鉛筆
4つ離れた姉がタバコを吸っている事実を知った日、なんとも言えないショックを全身に感じた。衝動と軽いボケ精神で私は補助軸なしでは使いにくくなった鉛筆や色鉛筆をタバコとすり替えた。これで怒ったらかなり吸ってるぞなんて思いながら。タバコの箱は重たくなった。姉は笑っていた。でも随分吸っているようだった。
軽トラ
バイトに行く道中、こちらに向かって走ってくる軽トラの運転席に釘付けになった。強い西日に顔をしかめながらタバコに火を点けようとするおじさん。両腕でハンドルを抑え前方を気にしながらなかなかつかない火にも目をやる。忙しい人だった。特別ハンサムな訳でも無いのに何故こんなにも詩的なんだろう。一瞬の出来事なのに随分長い間その光景を眺めていた。

花束
ワタリウム美術館に併設するミュージアムショップ、オン・サンデーズで沢山のポストカードを見た。その日は久々に彼に会った日で、観るもの全てが祝福の儀に見える。当然美術品は私の目を奪い、潤す。けれど心を奪われたのはその帰り道だった。目に飛び込んでくるのはトラックに積まれた豪華な花。花の奥で一服する配達員の男たち。煙がトラックに詰まって霧がかった四角。彼は見ていなかった。 この全てを忘れないと誓った。
「街の友達」
東京に行くと、周りの友達はみんなタバコを吸っていた。まだ20年生きてはいない時だった。吸わないのかと聞かれた時のことを思い出すと今でも微笑する。「私歌歌うから喉大事なんだ」渋く、真剣な表情で言った。嘘では無いが理由では無かった。
「ベランダ」
夜彼にテレビ電話をするとベランダで一服している時なことがある。そんなときは「病気になる」だとか「肺が黒くなってきたよ!」とか非難する。でも笑いながらこっちを見るから、どうだってよくなってしまう。
Cigarettes 2021 3/15
Thank you.
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